楠桂の和風伝奇ファンタジー「桃太郎まいる!」をレビュー!

漫画

少女漫画雑誌「りぼん」の愛読者だった私。
生まれて初めて買ったりぼんの巻頭カラーを飾っていたのはあのジブリ映画で有名な「耳をすませば」第一話。 そして最終話が掲載されていたのが、今回ご紹介する「桃太郎まいる!」でした。
ふわふわでキラキラな絵柄の作品が圧倒的多数の中、その作品はゴリッゴリの太い線と青年誌レベルの高い画力で 目立っていたというよりは良い意味で浮きまくっていて、強烈なインパクトを覚えたのでした。

「桃太郎まいる!」概要

タイトル:桃太郎まいる!
作者:楠桂
出版社:集英社
連載期間:1992.9~1994.4
巻数:全1巻

おとぎ話の「桃太郎」をモチーフにした、コメディあり、アクションありの和風伝奇ファンタジー。
成り行きで仲間になるものの、だんだんと絆が強くなっていく桃太郎と3人のお供たちの活躍が描かれています。
童話や伝説がベースになった作品は珍しくありませんが、犬・猿・雉(鳥)の擬人化はあの時代ではもしかしたら珍しい設定だったかもしれません。
基本はギャグテイストですが、その中に現れる「鬼」の描写や「鬼」に変化してしまった女の悲しい過去が楠先生の圧倒的な画力によって美しく、時に妖しく描かれています。

「桃太郎まいる!」あらすじ

老夫婦の子どもとして育てられていた桃太郎は、自分の出生の秘密を知ったショックで衝動的に家出をしてしまう。すぐに思い直して帰ろうとするが深い森の中で迷子になり、困り果てた桃太郎の前に人狼の紫狼、もと猿の飛丸、鷹の化身隼人が現れる。四人は桃太郎のきびだんごの元に一致団結し、桃太郎の家を探す旅に出る事になったのだが…

「桃太郎まいる!」感想

一言で言ってしまえばこれにつきます。
楠先生、漫画上手すぎ。
画力も去る事ながらそのストーリー構成の見事さですよ。
序盤にお供の犬・猿・鳥も一人一人のキャラクターがしっかり魅力的に描かれているし、桃太郎の正体についても 中盤に出てくる老女・およねさんを通して日本神話を絡めた興味深い解釈をされています。
個人的におよねさんの夢に現れた託宣神が麗しすぎました。私の夢にも出てほしい。

ギャグとシリアスのバランスの取り方が絶妙で、ものすごくふざけたシーンの後に
”鬼神は時に美しいおなごをさらう”
”殺して愛そか 活かして食おか”
というようなミステリアスでどこかぞっとするモノローグが急に挟み込まれます。今でも「桃太郎まいる!」でパッと思い出すシーンといえばこのモノローグです。
”後は蛇となれ 鬼となれ”とか。

最終話、戦いの中で覚醒した桃太郎がとある”変化”をします。
まさか過ぎる展開で面食らった人も多かったと思いますが、第一話のとあるシーンが大きな伏線になっていた事が分かった時は驚愕の一言でした。もう見事としか言う他ないです。

作品のポイント

この作品のポイントは「花」と「鬼」だと思います。
魅せゴマで主に描かれる「花」は少女の憧れの対象であると共におとぎ話や日本神話が持つ神秘性を美しく、時に妖艶に表しています。
そして「鬼」。「花」とは打って変わって、筋骨隆々で荒々しい「鬼」は恐怖や暴力の象徴。少女が嫌悪する対象です。
「花」はこれ以上無いほど細やかに美しく描かれ、「鬼」は生々しさを感じるほど荒いタッチで描かれている。
その二つの要素が全く違和感なく一つの作品に混在しているというのが、桃太郎まいる!の魅力であり、楠先生の超ハイレベルな画力の証明なのだと思います。
楠先生の他作品については、また別の機会に取り上げたいです。

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