小さな頃に読んだ漫画には、特別の愛おしさが生まれるものです。
今回は、私が人生で初めて「ファンアート」というものを描くきっかけとなり、オタクへの道を歩ませた罪深い作品「ヤダモン」という漫画をご紹介していきます。
「ヤダモン」概要
タイトル:ヤダモン
作者:SUEZEN
出版社:徳間書店
連載期間:1992.9~1994.4
巻数:全2巻
ヤダモンをご存じの方は、漫画よりアニメの印象の方が強いかもしれません。
アニメ「ヤダモン」はNHK(途中からNHK教育へ移動)の10分という短い尺で
1992.8~1993.7まで放送されていました。
あらすじ
おてんばでワガママな魔女のプリンセス・ヤダモンは、度の過ぎたいたずらをしでかした罰として自分の住む「魔女の森」を追放され、人間界へ修行の旅に出ることに。
たどり着いた人工の島「クリーチャー・アイランド」で出会った人間の少年・ジャンの家に居候する事になったヤダモンは、妖精界からやってきた時の妖精・タイモンと共に、様々な人々と交流を重ねながら少しずつ成長していく。
しかしヤダモンが人間界で充実した日々を過ごす一方で、強大な魔女「キラ」が世界に危機をもたらそうとしていた。
漫画とアニメの違い
「ヤダモン」は漫画とアニメがほぼ同時期に公開されていたにも関わらず、設定や終盤の展開が大きく異なっています。
世界を滅ぼそうとする闇の魔女・キラとヤダモンが対決する流れは同じなのですが、キラが闇落ちした理由や第一話から登場する「大きなたまご」の設定が全く違っているので、アニメを見た後に漫画を読んだ当時の私は「あれ?こんな話だっけ?」とけっこうな違和感を感じた記憶があります。
アニメ版では闇の力を持つ植物「キラの花」に向かってバズーカ砲をジャンが撃ちまくったり、研究所からロボット的な兵器が登場したり、ジャンの母親がヘリコプターに乗って増殖するキラの花と戦闘したり…と、アクション映画かと思うほどの激しい攻防が続くのですが、尺に余裕が無かったのか終盤にかけてのストーリーが詰め込み過ぎで、最終回はかなり駆け足になっている印象でした。
漫画版では全2巻という短い巻数の中、キラとの戦いと結末を上手くまとめているのでとても読みやすい内容になっています。
「ヤダモン」の魅力
この作品の魅力は、何といってもキャラクターデザインにつきます。
普段はおだんごのようになっているヤダモンの髪が、魔法を使う時に蝶の羽に変形するという設定は、改めて今見直しても斬新なデザインだったと思います。
子どものヤダモンは緑のベースに黄色の丸が3つあしらわれたシンプルな模様の羽ですが、ヤダモンの母親である魔女の森の女王はとても大きくて優美なアゲハチョウの羽を持っています。
アニメのエンディングでは、SUEZEN先生の描いた女王の壮麗なカラーイラストが拝めました。
その絵が本当に衝撃的なほど美しくて、初めて見た時「こんなきれいな絵がこの世にあるんだ!?」と心の底から震えた記憶があります。本編と同じくらいエンディングのイラストを見るのが毎回楽しみでした。
思えばあの時「どうやったらこんな絵が描けるんだろう?」と本気で思った事が、その後イラストを一生懸命練習するきっかけになったんだと思います。
(そしてオタクの道を進む事に…)
「ヤダモン」感想
幼少期の私に絶大な影響を与えたヤダモン。
小さくて愛らしく、ワガママだけど純粋でみんなに愛されるヤダモンと、ぬいぐるみのような容姿で可愛いタイモンのコンビに夢中だったのですが、大人になって振り返ると、漫画の視点が魔女の森の女王、つまりヤダモンの母親の視点から描かれている部分が多い事が分かります。
もしかしたら漫画の主役はヤダモンというよりむしろ女王だったのかも…とも思いました。
可愛い一人娘を成り行きとはいえ遠い人間界に追放しなければならなかった事。
運良く娘を保護してくれたルブラン家に感謝しつつ、自分や娘の正体を頑なに隠さなければいけなかった過去の辛い出来事。
そしてまだまだ幼いと思っていた娘が、いつの間にか少しだけ大人に成長していた事。
この物語は、女王の目から見たヤダモンの成長の物語なのかもしれません。
そもそも女王がとても魅力的なキャラクターで、女王の割には人間界の女性雑誌が大好きだったり、軽口をたたくのが好きなおちゃめな性格だったり、とんでもない大食いでジャンの両親を呆れさせたり、その反面、戦いでは凛とした姿がカッコ良くて…
終盤のキラとの戦いでは時折涙を見せる優しい彼女にすっかり魅了されてしまいました。
そしてもう一人欠かせないのがヤダモンのお兄ちゃん的な存在であるジャンです。
両親が優秀な研究者であるジャンはエリートですが、クラスメイトにはいびられたりする事もある、少し気の弱い男の子。(でもガールフレンドはいる)
なんとも頼りにならなそうな彼ですが、ヤダモンが来た事で「お兄ちゃん」としての自覚が生まれ、ヤダモンに振り回されながらも精神的に大きく成長していきます。
だからこそ、終盤のジャンとヤダモンのやり取りは切なすぎましたが…
ギャグ多めの子供向け作品かと思いきや、独特なファンタジーの世界観で最後はじんわり切ない漫画「ヤダモン」。
30年経った今でもやはり名作だったと改めて思います。
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